Tm:YAG(ツリウム添加イットリウム・アルミニウム・ガーネット)は、YAGホスト結晶に添加されたツリウムイオン(Tm³⁺)を活性利得媒質として使用する固体レーザーの一種です。このレーザーは短波赤外(SWIR)領域の光を放射することで知られており、最も一般的な波長は2.01 µm(2010 nm)付近です。この波長は水に強く吸収され、「アイセーフ」とみなされるため、Tm:YAGレーザーは医療、産業、防衛用途で重要なツールとなっています。
動作原理
Tm:YAGレーザーは、YAG結晶格子内のツリウムイオンを励起することで動作します。
- 光ポンピング: 通常、レーザーは約785 nmで発光するAlGaAs半導体ダイオードレーザーによって励起されます。この特定のポンプ波長により、Tm³⁺イオンは基底状態からより高いエネルギー準位へ効率よく励起されます。
- 交差緩和: Tm:YAGレーザーは、「交差緩和」と呼ばれる特有の量子力学的過程を利用します。1個のTm³⁺イオンが785 nmのポンプ光子によって励起されると、そのエネルギーの一部を隣接する未励起のTm³⁺イオンに移すことができます。その結果、2個のイオンが上位レーザー準位に到達する過程が、1個のポンプ光子の吸収によって生じ、非常に高い量子効率(理論上は200%に近い値)が得られます。
- 発光: 励起されたイオンがより低いエネルギー準位に戻ると、誘導放出によって光子を放出し、約2010 nmのレーザービームを生成します。

物理構造
標準的なTm:YAGレーザーの物理構成は、複数の主要な光学部品で構成されています:
- 利得媒質: 特定濃度のツリウム(通常は2%~6%)をドープした、イットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG)結晶の円柱ロッドまたはスラブ。
- 励起光源:高出力レーザーダイオードを光ファイバーまたは自由空間レンズで結合し、励起光を利得媒質に導きます。
-
光共振器(キャビティ): 利得媒質の両端に配置された2枚のミラー。
- 高反射ミラー(HR): 2010 nmの光のほぼ100%をキャビティ内へ反射し、785 nmのポンプ光を透過します。
- 出力カプラー(OC): 2010 nm光の所定の割合を使用可能なレーザービームとして共振器外へ取り出す部分反射ミラーです。
- 熱管理: 余分な熱を放散し、ビームを歪ませる可能性がある結晶内部の「熱レンズ効果」を防ぐための冷却システム(多くの場合、水冷式チラープレートまたはマイクロチャネルクーラー)です。
主要な光学指標
Tm:YAGレーザーを評価または仕様選定する際には、いくつかの指標が重要です:
- 動作波長: 通常は~2.01 µmですが、正確な結晶組成と温度に応じてわずかに調整できます。
- 出力: 単一周波数タイプの数ミリワットから、高出力産業用システムの数百ワットまでの範囲です。
- ビーム品質(M²係数): レーザービームが理想的なガウシアンビームにどの程度近いかを示します。M²が1.0に近いほど、小さなスポットへの集光に適しています。
- スロープ効率: 入力ポンプパワーに対するレーザー出力パワーの比率です。クロスリラクゼーションにより、Tm:YAGレーザーは高いスロープ効率(多くの場合>40%)を達成できます。
- パルスエネルギー / 繰り返し周波数: パルス(Qスイッチ)システムでは、単一パルスで供給されるエネルギーと、1秒当たりのパルス数(Hz)を示します。
分類と種類
Tm:YAGレーザーは、動作モードによって分類できます:
- 連続波(CW): レーザーは安定した途切れのない光ビームを放射します。医療用の軟組織手術で一般的に使用されます。
- Qスイッチ(パルス): 光スイッチ(Qスイッチ)を共振器内に配置し、エネルギーを蓄積して短く強いパルス(ナノ秒)として放出します。
- マイクロチップレーザー: 利得媒質の小さな薄片にミラーを直接コーティングした、非常に小型のモノリシックTm:YAGレーザーです。低出力の単一周波数用途に使用されます。
用途
- 外科手術: 2.01 µmの波長は人体組織内の水に強く吸収されるため、Tm:YAGレーザーは周辺組織への熱損傷を最小限に抑えながら、精密な切開と迅速な凝固(止血)を実現します。泌尿器科で広く使用されており、前立腺蒸散術などに用いられます。
- リモートセンシングおよびLIDAR: 2 µm の波長は「アイセーフ」な大気透過窓に含まれます。風速の測定(ドップラーLIDAR)や、CO₂、H₂Oなどの大気ガスの検出に使用されます。
- 材料加工: 一般的な1 µmまたは10 µmレーザーに対しては透明ですが、2 µmでは不透明になる透明プラスチックやポリマーの溶接および切断に使用されます。
- 他のレーザーの励起: Tm:YAGレーザーは、2.1 µmで発振するHo:YAG(ホルミウム)レーザーの励起光源としてよく使用されます。
実例:前立腺蒸散術(ThuLEP)
ツリウムレーザー前立腺核出術(ThuLEP)と呼ばれる泌尿器科手術では、外科医が連続波(CW)Tm:YAGレーザーを使用し、軟性光ファイバーを介して内視鏡から照射します。
前立腺組織は水分を多く含むため、2.01 µmのレーザーエネルギーは表面から1ミリメートル未満の深さで吸収されます。これにより、外科医は尿道を塞いでいる余分な前立腺組織をきれいに蒸散させ、切除できます。同時に、レーザーの熱が周囲の血管を封止するため、ほとんど出血することなく処置を行えます。Tm:YAG波長の精密さにより、深部にある重要な神経や組織への損傷を防ぎます。
